DISCUSSION [特別座談会]
なぜ企業が森をつくるべきなのか?

DISCUSSION [特別座談会]
なぜ企業が森をつくるべきなのか?

「イチ企業、イチ森」の時代──ソウワ・ディライトでは、地域や企業が自ら「森」や「生態系」をつくっていくことを提唱している。いまなぜ企業が森をつくるべきなのか?人間と自然の関係性についてそれぞれの視点で探求してきた4名で語り合いました。

Photo by Shinya Kigure

  • REIKO ITABASHI
    キュレーター。 文化・交流を生み出す持続的な街づくりに携わりたいと考え、文化事業を重視する企業に入社し、文化施設の立ち上げに携わる。個人の活動では、インディペンデント・キュレーターとして「ネクスト・キュレーターズ・コンペティション2021」を受賞し、展覧会の開催や執筆、登壇など、幅広く活動している。

  • KOHEI ITO
    株式会社BIOTA 代表取締役。都市環境の微生物コミュ二ティの研究・事業者。 山形県鶴岡市の慶應義塾大学先端生命科学研究所にて高校時代から特別研究生として皮膚の微生物研究に従事。2015年に、慶應義塾大学環境情報学部に進学。情報科学と生物学を合わせたバイオインフォマティクス研究に従事し、国際誌に複数論文を出版。現在は株式会社BIOTAを設立し、微生物多様性で健康的な都市づくりを目指して研究・事業をおこなっている。

  • SHINGO WATANABE
    株式会社ソウワ・ディライト 代表取締役

  • DOMINIQUE CHEN
    NTT InterCommunication Center 研究員、株式会社ディヴィデュアル共同創業者を経て、現在は早稲田大学文学学術院教授。カリフォルニア大学を卒業後、NPOクリエイティブ・コモンズ・ジャパン(現・コモンスフィア)を仲間と立ち上げ、自由なインターネット文化の醸成に努めてきた。近年では、国内外で展示を行いながら、テクノロジーと人間、そして自然存在の関係性を研究している。

  • REIKO ITABASHI
    キュレーター。 文化・交流を生み出す持続的な街づくりに携わりたいと考え、文化事業を重視する企業に入社し、文化施設の立ち上げに携わる。個人の活動では、インディペンデント・キュレーターとして「ネクスト・キュレーターズ・コンペティション2021」を受賞し、展覧会の開催や執筆、登壇など、幅広く活動している。

  • KOHEI ITO
    株式会社BIOTA 代表取締役。都市環境の微生物コミュ二ティの研究・事業者。 山形県鶴岡市の慶應義塾大学先端生命科学研究所にて高校時代から特別研究生として皮膚の微生物研究に従事。2015年に、慶應義塾大学環境情報学部に進学。情報科学と生物学を合わせたバイオインフォマティクス研究に従事し、国際誌に複数論文を出版。現在は株式会社BIOTAを設立し、微生物多様性で健康的な都市づくりを目指して研究・事業をおこなっている。

  • DOMINIQUE CHEN
    NTT InterCommunication Center 研究員、株式会社ディヴィデュアル共同創業者を経て、現在は早稲田大学文学学術院教授。カリフォルニア大学を卒業後、NPOクリエイティブ・コモンズ・ジャパン(現・コモンスフィア)を仲間と立ち上げ、自由なインターネット文化の醸成に努めてきた。近年では、国内外で展示を行いながら、テクノロジーと人間、そして自然存在の関係性を研究している。

  • SHINGO WATANABE
    株式会社ソウワ・ディライト 代表取締役

森の「空間多様性」

板橋みなさんには渡邉さんのご案内で、ソウワ・ディライトが本社敷地内につくった小さな森「coco no mori」を歩いていただきましたが、いかがでしたか?

ドミニク「空間多様性」とでも言えばよいのでしょうか、木をかき分けて森の中に入っていく中で、少し移動する度に空間が広がっていくような感覚があったのが印象に残りました。会社の敷地を歩いているだけなのに、いろいろな場所に行ったような感覚があります。渡邉さんはなぜ、こうした場所をつくろうと思ったのでしょうか?

渡邉前橋市のまちづくりに携わる中で、シリコンバレーなど世界中のDXが進んでいる地域をまわりながら、デジタルテクノロジーの潮流を追いかけていた時期がありました。しかし、最先端に触れていく中で、自分の中で非常に虚しくなる気持ちというか、寂しさのような感覚も芽生えていたんです。

そんな時期に、自分の気持ちが高揚して、エネルギーがチャージされるような場所が「森」でした。森を歩いていると、転びそうになって、足元もおぼつかないのですが、身体に訴えかけてきて、パワーをもらえる感覚があって。そして、さまざまな森に出かける中で、自分でも森をつくってみたいと思うようになったんです。まずは森からエネルギーをいただく感覚を、都市で体感できる場所をつくりたいと考え、coco no moriをつくりました。coco no moriは最終地点ではなく、ここをきっかけに、赤城山の森など実際の森に触れてほしいと思っています。

また、「地域の生態系」をつくるために、企業による森づくりは重要だと考えています。たとえばソウワ・ディライトの森は企業のサテライトオフィスのような側面もありますが、有事の際の防災拠点でもあります。さらに、子どもたちにとっての遊び場でもある。山の中の生態系とは違う、地域にとって必要な生態系が生まれているんです。


「勝手に生まれてしまう」装置として

伊藤一度歩くだけでも多様さを感じますが、また後日同じ場所に来ても面白いと思います。僕はよくソウワ・ディライトのオフィスに来るのですが、その度に「あれ、こんなものあったっけ?」と新しい発見があるんです。空間が変化し続けることで五感が刺激される、とても良い場所だなと思いますね。

渡邉森をつくると拡張性が高まるんです。勝手にデザインされていくというか、新しいものが生まれてしまう。枯葉が多くあると微生物はもちろん、虫がやってくる。すると今度は虫に引き寄せられてモグラがやってくる。またモグラに引き寄せられて猫がやってきたり、いろいろな動物が集まってきたりします。

ドミニク「勝手に生まれてしまう」という言葉は非常に重要だと思いました。デザインが前提とする能動的な人間観に対して、さらにはアートの一人の天才的な作家を求める近代的な前提にも疑問符を突きつけます。

伊藤ソウワ・ディライトの森には、動物や植物、微生物がいて、ステークホルダーが幅広いですよね。その結果、「カーボンニュートラル」や「生物多様性」といった標語で目指されている状態が自然と実現しています。

僕の活動に引き付けて言えば、森づくりの意義は「微生物多様性」を取り戻すことだと思うんです。生態系ピラミッドのボトムは微生物。微生物たちが動物の死骸やフン、落ち葉を分解して植物に栄養を与えることで、人間も含めたより高次的な生き物への価値が供給されます。つまり、豊かな生態系の基礎である「微生物の多様性」を僕たちの居住空間に増やすことで、健康的な暮らしを勝手につくってくれる。

しかし、今の都市環境は自然が豊かではないので、微生物が全然いません。敷地面積も限られる都市の中で、いかにして森をつくっていくのか。これはBIOTAとしてもチャレンジしていきたい点です。

ドミニク自然との一体感——「ネーチャー・コネクテッドネス」を感じることと、ウェルビーイングの関係性については、僕も気になっています。僕はぬか床をつくっているのですが、家のキッチンでぬか床をかきまぜていると、森と自宅の関係性が気になってくるんです。比較的大きい公園の近くに居を構えているので、微生物がぬか床にやってくることを祈りながら、公園に面したキッチンの窓を全開にすることもあります。

つまり、ぬか床によって行動が変化しているわけです。微生物がいるかもしれない、有益な微生物が僕のぬか床にやってくるかもしれない……今まで気にしていなかった存在を意識するようになり、行動のリデザインが生まれているんです。

板橋アートに関わる人間として驚いたのは、環境問題に配慮しながら表現活動をしているアーティスト、オラファー・エリアソンと共同プロジェクトを進めていることです。エリアソンは、彼のつくった花形の黄色いソーラーライト「リトルサン」をソウワ・ディライトに公式に提供しているそうです。渡邉さんが「やりたいことをやるべきだ」と発信しながら行動に移す中で、能動的に仲間を増やしていることがとても素敵だなと思いました。そうした意味でも、森は、ステークホルダーを増やして、巻き込んでいく装置になっていると感じます。


感性をほぐし、表現を促す

渡邉森にいると感性が触発されますが、一方で、森を一歩出て都市生活に戻ってくると、感性を制限されてしまっているとも感じます。本来であれば誰でもどこでも感性のままに表現できる社会が理想だと思うのですが、それをなかなか許してもらえない。

とりわけ、その被害を一番受けているのは子どもたちだと思います。coco no moriで思いのままに遊んでいるときと、それ以外のときで、見せる顔が明らかに違うんです。

板橋森には人の感性をほぐす役割がありますよね。私が2022年に開催した「Mother nature」という展覧会では、ギャラリー全体に落ち葉を敷き詰めました。来場者に踏まれたり、微生物に分解されたりすることで、会期の一日目と最終日では全く違う光景になりました。屋内でありながら足元で自然を追体験できる環境をつくったことで、参加アーティストから「作品に対する姿勢が変わった」と言われたり、来場者の方から「ホワイトキューブで緊張感を持って見るのとは違う、能動的な鑑賞体験ができた」という声をいただいたりしましたね。

森のような自然を媒介にすることで、感性がほぐれて普段気づけなかった感情に気づけたり、素直になれることがあったりするのではないでしょうか。その意味で、森はアートと同じように、人に感性の開放を促す装置だと思っています。

伊藤僕も森は、アートと似た側面を持っているように思います。coco no moriは、気温を下げることや、防災の拠点といったソリューション的な役割を果たすだけでなく、「あなたたちはどう生きたいのか」という問いかけの装置にもなっている。企業が森をつくることで、その企業自身に「自分たちがどう地球と関わっていきたいのか」という問いが立つでしょうし、森を通して自社の姿勢を示すこともできます。


社会課題について本気で考えると、森に行き着く

板橋ここまで話してきた森づくりの意義を踏まえて、これからどうすれば「イチ企業、イチ森」の世界を実現していけるとお考えでしょうか?

渡邉森をつくったとしても、すぐに売上が増えるわけではありません。金銭的な見返りがすぐに期待できない中で、森づくりに大きなエネルギーを割くというのは、簡単なことではないでしょう。それでも、地球をより良くするための企業のあり方を模索していくことが大切だと思っています。

伊藤「あとはやるだけ」なのに、踏み出せていない企業が多い印象があります。微生物多様性を高めるプロジェクトをご一緒する企業の方とお話しすると、よく「人間にどんなベネフィットがあるの?」と聞かれるんです。人間は生態系ピラミッドの高次にいるので、ボトムの存在が満たされれば、最終的に利益を享受できるはずなのに、人間に直接的に返すことばかりを求められてしまう難しさがあります。

渡邉「今年利益が出たからいくら寄付しよう」ではなく、地球を良くするために自分たちの利益や知見をどう活用するか考えていると、自ずと取り組むべき課題は見えてきます。企業の方とお話ししていると「どうしたら取り組むべき社会課題が見えてきますか?」と聞かれることも少なくありません。しかし、時間やお金を地域のために使っていると、取り組むべき課題は自然と見えてくる。社会課題について本気で考えると、森に行き着くんです。

近年、「人間らしさ」が失われていることについて注目が集まっています。どんどん失われてゆく「人間らしさ」を取り戻すにはどうすればいいのか、企業が本気で向き合ったら、森、ひいては生態系に対してアプローチする必要性が浮かび上がってくるはずです。

板橋いわゆるCSR活動のように、本業と完全に分離した形ではなく、渡邉さんのように、自らがワクワクしながら携わる方が増えたらいいなと思いました。もちろん、短期的に収益が上がるわけではない中で、覚悟を持ち、成長を信じて森を育て続けることは、簡単ではありません。たとえ森をつくったとしても、放っておいたら草が伸びて子どもが来なくなってしまうかもしれない。coco no moriは、渡邉さんがいつもいてお世話をしているからこそ、子どもたちがずっと集まってくる場所になっているのだろうなと思いました。

ドミニク大学の授業で、SDGsや社会課題について紹介したうえで学生さんたちに取り組むべき課題を考えてもらうと、十中八九、失敗します。つまらないんですよね。しかし、逆にとても私的な問題──他人には全く共感されないかもしれない問題から考えてもらうことにするとうまくいきやすい。満員電車がつらい、睡眠時間が短すぎる……個人的な悩みをベースに話を進めてもらうと、自分ごと化して、課題の解像度が高まる。すると、結果的に課題の射程が広がり、悩みが社会化するんです。

渡邉社会課題を見つけられないという人は、まず何か身のまわりでつくった方がいいと思っています。そうした取り組みに没頭していると、次第に企業の文化や行動が変わり、課題の解像度も上がっていくのではないでしょうか。